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ベートーヴェン交響曲シリーズ第3作

ベートーベン : 交響曲第5番「運命」

J.シュトラウス :「こうもり」序曲、ワルツ「芸術家の生涯」

指揮: 北村憲昭

オーケストラ: スロバキア・フィルハーモニー管弦楽団

録音場所: スロバキア ブラチスラバ スロバキア・フィルハーモニー・ホール

収録日: 2013年 2月 16-17日


ルードヴィッヒ ヴァン ベートーヴェン
交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

Ludwig van Beethoven
Symphony No.5 in C minor op.67
 
I Allegro con brio
  II Andante con moto
III Allegro
  IV Allegro

 ヨハン シュトラウスU世
喜歌劇「こうもり」序曲
ワルツ「芸術家の生涯」

Johann Strauss II
“Die Fledermaus”Ouvertüre op.362
    “Künstlerleben”Walzer op.316

 
スロバキア国立 スロバキア フィルハーモニック管弦楽団
北村憲昭 指揮

The Slovak Philharmonic Orchestra
Noriaki Kitamura
 Conductor


105pos

 

使用楽譜: BREITKOPF & HÄRTEL URTEXT Nr. 5345(交響曲第5番「運命」 ハ短調 作品67)
       

録音音源:村上輝夫氏によって最新の機器(KORG社製の1bit録音機)で録音された物。

*今回の 録音エンジニア村上輝生氏のホームページ: http://www.mu-s.com/

 

指揮者コメント


 作曲家の意図に極力沿うべく努力をした。
 楽譜は上記のURTEXT(原典版)を使用。 第6番と第7番はBÄRENREITER URTEXTであったが、今回はBREITKOPF & HÄRTEL URTEXT Nr. 5345を使用した。
 理由は、オーケストラが用意していたためであるが、この版にもそれなりの意義があるとの思いからである。
 常に作曲家の意図を尊重する姿勢が私のポリシーであるが、果たしてどの版が最もふさわしいかの判定は音楽学者の研究を待たねばならない。

 演奏家としてはどの版にもそれなりの必然性を感じるのだが、判定は難しい。むしろ当時としては各地で演奏されたのであれば、それぞれのオーケストラ事情や、その時の作曲家の思いもあったのだろう。となればどれも正しいのではないだろうか。
 我々が注意すべきは、後年作曲家以外の記述を見極める事であろう。それはそれなりの親切なアドヴァイスも含まれているのだが、多くの場合は演奏家を惑わすものでしかない。

 これには若干の弁護をかって出なくてはならない。
 彼は、書かれた楽譜は不完全なものとに認識からスタートし、それに手を加えることこそが演奏家の義務であるとの認識がかなり最近まで信じられてきたからである。
 それに正しい研究の下に編纂された楽譜が手に入る事が出来るようになったのも、ほぼ2000年以後からであるからである。
 私も修行時代には、数種の楽譜を見比べどれが正しいのかを師匠と検討した。これをエディション研究という。それを演奏家自身でしなければならなかった。

 大変にいい時代になったといえる。それでも今なお古い誤った記述のある楽譜を使用する団体や演奏家が多いのは嘆かわしい事と思う。
 そのような不誠実な演奏家は御退場願いたい。それだけでなくそのような演奏家の片棒を担ぐ評論家も、もう引退のころだろう。生半可な知識でこき下ろす のはもうやめていただきたい。叩く相手を間違っている。そのような発言を一般の聴衆は正しいと信じているのだから。罪は大きい。

 しかし私も今回箇所か、この楽譜と異なった演奏をした。

 第1点目は、テンポである。
 ベートーヴェン自身が記したテンポに私は疑問を感じていて、当時のメトロノームの目盛りに問題があり、約10%早いと主張し て来た。ゆえにそれに沿ったテンポ設定が基準である。しかし、演奏の最大の目的を良い音での良い演奏としている以上、その時の状況に左右されてしまう事に は問題を感じていない。結果的に全体に少し遅めの設定になった。これも演奏の丁寧さに伴う物で、 否定する物ではなかった為にそのまま続行した。
 この点は以前と同じである。

 第2点目は、特殊な事ではあるが、この版にはオプションで第3楽章の前半2/3ほどの繰り返しが書かれている。これも省略した。

 今回カップリングにシュトラウスの「こうもり」序曲と「芸術家の生涯」を選んだ理由も複数ある。先ずは、「こうもり」序曲は、お聴き頂ければわ かるが冒頭の旋律は「運命」のモチーフからなっている。どこまで意識をして書かれたかは定かではないが、このような風刺劇の冒頭に子のモチーフを持ってき たかの意味はそれなりに分かる気がする。

 「芸術家の生涯」のワルツを持ってきたのは、実は私は「運命」の中にベートーヴェンの半生が書かれていると見ているからである。これは全く私自身の主観で、決して文献などの裏付けがあってのことではない。

 すなわち、第1楽章「父親への反感」、第2楽章「母の優しさ」、第3楽章「悩み多き自分自身」、第4楽章「ふっきれた私」、といった物語である。
 これに共感を持って戴こうとは思っていない。ただきっとこの様なものに近い感情の変化を彼は書こうとしたのではないだろうかと感じたのである。
 同年に作られた「田園」と対をなす事から思えば、「田園」は恋人との楽しい日々を描いているのに対応して自身の事を省みたとしてもよいのではないだろうか。
 純粋にこれらの音楽が古き良きウイーンの音楽である事を感じていただけるのであればそれでも構わないと思っている。

 シュトラウスの作品は、「こうもり」序曲でもそうだが、テンポルバートといわれるちょっとした間合いのテンポの変化はこの地方独特のものであり、以後の作曲家にも大きな影響を 与えたものである。
 これらは、このスロバキア・フィルハーモニー・オーケストラがウイーンの文化圏にある(ウイーンの東60キロに位置しドナウ川沿いに立地する首都ブラチスラバを本拠地とし ている)日常的にこのような音楽に接している人たちのセンスが必要であり、他の地では難しいであろうとの判断での選択である。大変に良く答えて頂けた。
 古き良きウイーンの雰囲気を十分に満喫していただけるであろう。

 改めてスロバキア・フィルハーモニーのメンバー、マネージャーの Ms. Tatiana SCHEFEROVA と、Mr. Pavel HRUBY、そして通訳だけでなくブラチスラヴァ滞在中に色々とお世話になったMs. Kinga VALENTに感謝を述べたい。又録音に際しご尽力いただいた、スロバキアのエンジニア 、日本からご同行いただいた村上輝夫氏に深く御礼を申し上げたい。さらにこのプロジェクトを支えてくださっている方々、財務一般や英訳そしてスロバキア側 との交渉をしていただいた北川啓微理事に感謝を捧げます。

指揮者 北村憲昭



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