指揮者コメント
交響曲「田園」への思い
今聞こえておりますのは
第2楽章冒頭部分です
この「交響曲への思い」はかなり小さい頃からのものです。
実は余り好きではなかった、いや、もっと強く嫌いだったといっても良いでしょう。それが変わった転機は、我師山田一雄先生のレッスンでこの曲をするといわれた時です。
「この曲は嫌いです。他のにしてください。」と言った私に、「嫌いでも良いから見ていらっしゃい。一度はしなければ成らない物だから。」と、怒りもせずおっしゃったからです。
あの怖い先生によくもまーこんな事を抜けぬけといったものだと今でも赤面ですが、数年後先生から「僕も嫌いだったから良くわかる。だからぜひレッスンしたかったのだよ。でもそんな事言ったのは他には誰もいなかったな〜」と、呆れられておりましたが。
その折に色々と習ったのが、イントネーション(その時はフレーズと言われました)です。
最初のページのコメントにも書きましたので重複はしませんが、普通あるアウフタクト(小節線より前から始まる音)が無いものがたくさんあると、習いました。
それが私のフレーズへのこだわりの一歩目です。
それを読み解くにつれて、音楽のシュチュエーションが見えてきました。それを此処でお話しましょう。
同時に録音した「エグモント」序曲の解釈ほどに克明ではありません。それは戯曲に付けられた作品と単独の交響曲との違いですので、其処まで克明にストーリーにこだわった物とも思えないからです。
この作品に付いての予備知識を先ず述べましょう。
初演では、この交響曲と同時にあの有名な「運命」も初演されています。それと大作「ミサソレムニス」の中の何曲かや「合唱幻想曲」などもです。
作曲年は二百年程前、1807〜8年頃と言われています。オペラ「レオノーレ」の失敗はあったものの、おおむね順調な時期ではなかったかと思われます。
特に注目したいのは、1804末頃から未亡人ヨゼフィーネと恋愛関係にあったことです。彼の恋愛経験の中でもかなり幸せな時を過ごしたのではないかという時期なのです。
これはかなりこの曲の性格に大きく影響したのではと思われるのです。
その根拠としては、ほぼ同時期に作られた「運命」との対比です。
これは言うまでもなく大変に激しい主張の音楽です。彼が「運命はこのようにして訪れる」と言ったといわれるように、真実かどうかは別にして彼の運命を変えた出来事をかなりの激しさを持って書かれていると言っても良いかと思います。
それと対比をなすならやはり穏やかな平和でしょう。幸せな時を思い起こしながら書かれたと言う想像は難しくはないのです。
しかしそのあからさまな表現はさすがに見せないベートーヴェン。
1楽章の馬車の音を伴奏に鳥の声や風の音、暖かい日差しの中、何処へ出かけたのでしょう。
3,4,楽章はいまさら何も説明は要らないでしょう。踊りと嵐。
5楽章は、夕陽を見ながら・・・・、最後にヴェスペレ(夕べの祈り)で締めくくられる訳です。
では残った2楽章はなんなんだ? 小川の情景(Szene Bach)と記されていますが、嵐は別として他の楽章のコメントには「楽しい」などの感情が書かれているのに、此処にはなぜないのでしょう。
4楽章の嵐と同じに淡々と情景を現そうとしているには湧き出した所からかなりの激流まで、変奏が繰り返されえている。
これにはどう見たって彼の感情の高まりを感じてしまいます。それも愛する人への愛しい思い。鳥の声の掛け合いで会話が聞こえ、二人の感情の高まりと見てよいのではないかと思います。
どうしても剛のイメージの強いベートーヴェンですが、それは幾分作られたイメージのように思われます。
たしかに風貌や行動なども無骨な印象が強いですが、音楽は中々ナイーブな印象の物も数多くあります。
同時に録音した「エグモント」序曲に見られるように、エグモント伯の強い意志や敢然と立ち向かうイメージもさることながら、原作に見る爽やかな恋愛小説のようなストーリ展開に彼が興味を持った事に注目が必要だと思います。
今までの巨匠達が演奏したベートーヴェン像だけではない側面を皆様にお聞かせできればと思います。
指揮者 北村憲昭
使用楽譜: BÄRENREITER
URTEXT TP906(交響曲第6番「田園」 ヘ長調 作品68)
BREITKOPF & HÄRTEL URTEXT Nr.
14640(序曲「エグモント」 作品84)
録音音源: 今回は計2種の音源が存在する。
1、スロバキアラジオのスタッフによる従来方式(24bitサンプリング)により編集された物。
2、最後の通し演奏を日本の技術者(村上輝夫氏)によって最新の機器(KORG社製の1bit録音機)で録音された物。
*今回の 録音エンジニア村上輝生氏のホームページ: http://www.mu-s.com/
を載せております。
興味のある方はそちらもご覧下さい。
又以前出版しておりました
北村憲昭指揮モラビア・フィルハーモニーによる
シューマン交響曲第1番「春」 & 第4番 を
このたびのCD録音のエンジニア 村上輝生氏によって
リマスターリングしたものを再版いたしますので
あわせてお聴きくださいませ。
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